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重曹は除湿剤として効果なし!固まってもほぼ吸湿していません

重曹は除湿剤として効果なし!固まってもほぼ吸湿していません

「重曹が除湿剤になる」という誤った情報が、ネットやテレビで広まっています。

しかし実際には、重曹はごくわずかに吸湿するものの、除湿剤になるとは到底いえません。

  • 重曹が固まる際に取り込まれる水の量は、高湿度の環境下でも、自重の0.1%未満
  • 除湿剤によく使われる塩化カルシウムと比べると、同じ重さあたりの吸湿量には、ざっと5000倍の差がある。
  • もし、市販のタンク型の除湿剤1個と同等の除湿効果を得ようとすれば、重曹がおよそ500 kg~1 tトン程度は必要。

この記事では、重曹が除湿剤にはならない理由を、科学的な背景とともに分かりやすく解説します。

ネットやテレビで広まる「重曹が除湿剤になる」は間違い

「重曹が除湿剤になる」という情報は、ネット記事・動画・SNSなど、ネット上でしきりに拡散されています。

しかし重曹には、除湿剤として機能するような物理的・化学的性質はありません。

よく、「瓶に重曹を詰めて置いておく」といった除湿法が紹介されますが、ただ重曹が固まるだけで、ほとんど除湿はできていません

最近では、こうした除湿法がテレビでも紹介されるようになり、全国放送のテレビ番組で紹介されたケースもあります。

このように、ネット上に転がっていた「重曹が除湿剤になる」という誤った情報が、多くの人々や企業により拡散され、年々広まっている状況です。

しかし、この誤情報に対する訂正や反論はほとんど行われていません。

そこで、この記事では2つの観点から、重曹が除湿剤にはならない理由を解説します。

  1. 除湿剤に使えるのは「潮解性ちょうかいせい」がある物質。
  2. 「重曹が固まる=除湿できた」は誤解で、ほとんど一切吸湿していない。

潮解性がない重曹が「除湿剤になる」という謎理論

一般に、除湿剤になるのは「潮解性ちょうかいせい」がある物質です。

潮解性とは?

潮解ちょうかいとは、固体の物質が空気中の水蒸気を取り込んで、自発的に水溶液になる現象です。

物質の持つ潮解する性質を、潮解性と呼びます。

例えば、水酸化ナトリウム(NaOH)が潮解性のある代表的な物質です。

潮解性がある物質は、空気中に放置しておくと、どんどん水蒸気を取り込んで、最終的にはすべての固体が溶けて水溶液になります。

市販の除湿剤に使われている「塩化カルシウム」も、潮解性がある物質です。

YouTubeに公開されていた、塩化カルシウムの潮解をタイムラプス撮影した動画を共有します。

16秒ほどで1日が経過します。1日でうっすらと容器の底に溶液がたまり、2日で大部分がひたひたになっています。

タンクに水(塩化カルシウム水溶液)がたまっていく市販の除湿剤も、まさに、この塩化カルシウムの潮解性を利用した製品です。

一方、重曹には、このような潮解性はありません

補足:潮解が起こる湿度について

除湿剤の塩化カルシウムが潮解するのは、湿度がおよそ30%以上の場合で、それ以下の湿度では基本的に潮解しません。

こうした、潮解が始まる変化点となる湿度を臨界りんかい湿度呼びます。

塩化カルシウムの臨界湿度はおよそ30%と低く、空気が非常に乾燥していない限り、吸湿して潮解します。

塩化カルシウムのように、中程度の湿度でも潮解が起こる物質が、一般に「潮解性がある」と見なされます。

薬品として物質を取り扱ううえでは、一般的な屋内の湿度(40~70%程度)でも潮解が起こるかどうかが重要なためです。


一方、重曹の臨界湿度はおよそ98%です。そのため、極めて高い湿度の空気中では、じつは重曹も吸湿が進んで潮解します。

しかし、重曹のように臨界湿度が高い物質は、潮解性があるとは見なされません。

屋内で物質を取り扱う際に、湿度が98%を超えるような状況は考えにくいためです。

除湿剤としての働きを考えるときも、住宅内で湿度が98%を超えるような状況は考えにくく、重曹が除湿剤になるとはいえません

また、潮解性を持つ物質以外に、シリカゲルのような水を吸着する多孔質たこうしつの材料や、生石灰せいせっかい(酸化カルシウム)のように水と化学反応を起こす物質も、乾燥剤に用いられます。

しかし、重曹はいずれにも該当しません。

重曹には、潮解性などの、多量の水を吸収するような性質はひとつもないのです。

「重曹が除湿剤になる」という情報は誤りといえます。

瓶に詰めた重曹が固まってもほぼ吸湿していない

重曹が除湿剤になるという情報では、「湿気を吸収して固まる」とよく説明されます。

たしかに、重曹は高湿度下で固まりやすい性質がありますが、その際に取り込まれる水分量はごくわずかです。

高湿度での重曹の吸湿量

重曹の固結メカニズムを報告した文献を参考にすると、30 °C・湿度80%の環境でも、重曹が吸湿できる水の量は、自重に対して800~900ppm(0.08~0.09%)程度にすぎません

重曹100 gあたりに換算すると、吸湿できる水の量は80~90 mgと、わずか2滴程度です。

除湿剤によく用いられる塩化カルシウムの吸湿量は、自重の3~4倍(300~400%)程度です

高湿度での重曹の吸湿量と比較すると、おおよそ5000倍ほどの差があります。

市販のタンク型除湿剤1個に塩化カルシウムが100~200 gほど使われているとすると、同じ除湿効果を得るには、最低でも重曹が500 kg~1 tトン程度は必要な計算となります。

クローゼットに1 t程度の重曹を置いて除湿剤にする非現実的なイメージ画像
除湿剤として、フレキシブルコンテナバッグに入った1 t程度の重曹をウォークインクローゼットに置いた場合のイメージ。広いスペースと丈夫な床が必要。

重曹で除湿するのは、まったく現実的ではありません

重曹が固まる詳しいメカニズムは?

重曹(NaHCO3)の結晶表面には、不純物として微量(0.2%程度)の炭酸ナトリウム(Na2CO3)が存在します。

高湿度の条件では、重曹の結晶表面に付着した水とともに、重曹と炭酸ナトリウムが化学反応を起こし、セスキ炭酸ナトリウムが生成します。

Na2CO3 + NaHCO3 + 2 H2O → Na2CO3・NaHCO3・2H2O

このセスキ炭酸ナトリウムにより、粒子間が架橋かきょう(橋かけされて結合すること)され、固結こけつすることが明らかになっています。

そのメカニズムを報告した文献より、まとめの一部を引用します。

重曹中の無水炭酸ソーダは高湿度下 (RH80%) ではセスキ炭酸ソーダに転化し,それと共に重曹の固結強度も増加した。

そして,高湿度下での重曹の固結メカニズムは重曹中の無水炭酸ソーダが吸湿してセスキ炭酸ソーダを生成する際の粒子間架橋によることが分かった。

同文献にて、重曹を72時間(72 h)、30 °C・湿度80%の条件で加温加湿し、表面生成物と固結強度を調べた実験では、以下のような結果が報告されています。

図 7 では,水分を付着水,炭酸ソーダ1水塩の結晶水,セスキ炭酸ソーダの結晶水に分別定量し,各々の経時変化を示した。付着水は終始一定の約100 mg・kg-1,炭酸ソーダ1水塩の結晶水は5 hまで50~100 mg・kg-1存在したが,その後は検出されなかった。ウェグシャイダー塩は検出されなかった。一方セスキ炭酸ソーダの結晶水量は,24 hまで経時的に増加し,以後72 hまでほぼ一定値を示した。

(中略)

重曹中に存在する無水炭酸ソーダは24 hで全量セスキ炭酸ソーダに転化することが分かった。

(中略)

重曹中の無水炭酸ソーダのセスキ炭酸ソーダ化が固結に強く関与していることが分かった。このことより,加温加湿下における重曹の固結は,以下の結晶表面の化学変化 ( セスキ炭酸ソーダ結晶生成 ) を経た粒子間架橋であることが示唆された。すなわち,

無水炭酸ソーダの吸湿→重曹表面溶解→炭酸ソーダ1水塩生成→セスキ炭酸ソーダ生成

なお、重曹は高湿度下でとくに固結しやすいものの、低湿度下では「重曹中の無水炭酸ソーダがウェグシャイダー塩に転化する際の結晶粒子間架橋」により固結すると、同文献中で報告されています。

まとめ・脚注・参考文献

湿気は重曹が固まる原因にはなりますが、微量の不純物(炭酸ナトリウム)と重曹との化学変化によるもので、取り込まれる水の量はごくわずかです。

吸湿量は自重の0.1%未満にとどまり、塩化カルシウムを使った市販の除湿剤と比べると5000倍程度の差があります。

「重曹を瓶に詰めて除湿剤にする」という方法が広まっていますが、科学的根拠に欠ける誤った情報であり、重曹には湿気を吸収する性質はほとんどありません。

除湿剤が必要なら、塩化カルシウムを用いた通常の除湿剤を使いましょう。

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